業績悪化で減額された役員給与は損金算入が認められるのか?

世界的な経済活動の停滞を受け、売上減少や業績悪化に悩む企業は増加の一途をたどります。

苦しい状況の中で従業員の給与などを捻出するため、役員給与の減額に踏み切るケースもありますが、
その場合に役員給与の損金算入が認められるかどうか確認しましょう。

●業績悪化で定期同額給与の損金算入が認められるケース

今年5月に国税庁はFAQ(よくある質問)を更新し、
そのFAQ内で新型コロナウイルス感染症の影響により役員給与を減額した場合の取り扱いも示されています。

法人税の取り扱いでは原則として、年度の途中で減額した役員給与は定期同額給与に該当せず、損金算入が認められません。
しかし減額の事由が業績悪化によるものであれば、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することが可能です。

この場合の業績悪化は法人税基本通達で、
「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があること」と定義されており、
法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは含まれません。

それでは新型コロナウイルス感染症の影響で減額した役員給与は、損金算入が認められるのでしょうか?FAQでは以下のような例と回答が示されています。

ケース1:イベントの中止要請により業績等が悪化したイベント会社
新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点で、イベントの中止要請があったことにより、
開催予定だったイベントが数か月先まで全てキャンセルとなった。

その結果収入が無くなり、毎月の家賃や給与等の支払いも困難な状況であることから、役員給与の減額を行うこととした。

このように業績等が急激に悪化して家賃や給与等の支払いが困難となり、
取引銀行や株主との関係からやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況は、「業績悪化改定事由」に該当する(損金算入が認められる)。

ケース2:観光客等の減少により経営悪化が不可避な土産物販売会社
新型コロナウイルス感染症の影響で入国制限や外出自粛要請が行われたことで、
土産物の主要な売上先である観光客等が減少し、当面の間は回復する見通しも立たない。

一方で従業員の雇用や給与を維持するため、経営判断として役員給与の減額を行うこととした。

このように現状では売上などの数値的指標が著しく悪化していないとしても、
役員給与の減額といった経営改善策を講じなければ、
客観的な状況から判断して今後の経営が著しく悪化することが不可避な場合は、「業績悪化改定事由」に該当する(損金算入が認められる)。

●定時株主総会を延期せざるを得ないケースでは?
また、役員給与の通常改定について例年は定時株主総会に合わせ行われる企業で、新型コロナウイルス感染症の影響により総会の開催を延期せざるを得ないケースもあります。

役員給与のうち定期同額給与の改定は原則として、会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行うこととされていますが、継続して毎年所定の時期にされる改定で「特別の事情があると認められる場合」には3か月経過後も認められます。

FAQでも新型コロナウイルス感染症による定時株主総会の延期は、自己の都合によらない「特別の事情があると認められる場合」とされ、定期同額給与の要件を満たすという解釈です。

いずれの損金算入が認められるケースでも税務調査に備えて、役員給与を減額しなければならない根拠資料および議事録を作成するなど、客観的な資料を保管する必要があります。企業として難しい経営判断が続く状況だからこそ、その都度事務上の手続きをきちんと踏むことが大切なポイントになります。

【参照】国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ(よくある質問)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf


前田 洋佑
著者:前田 洋佑

MYFP代表。MYFPではライフプラン、住宅ローン、保険など家計の見直しをお手伝い致します。

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